先日、2010年に担当させていただいたサウンド開発の仕事について大きな進展があった。
何度かそれについての取材やトークの依頼があったけど断り続けていたのは、
守秘義務の範囲が広く、僕が担当したことを公表出来なかったため。
その仕事自体が多くの反響を得たことも含め、
ようやくクライアントであるJAL様からのご好意で公表出来ることになりました。
先日、社内誌でサウンド開発について記事にしていただき、
当時担当してくださっていたS氏が会社に何度もお願いしてくれたおかげです。
担当してくれたS氏は、
本当に熱意と自社愛にあふれる素晴らしい方だったので、
一緒に仕事している僕も心から改革に熱を入れたことを覚えています。
気がついたらだいぶ出世されているようで、僕も嬉しい。
その仕事とは、多くの方が使用しているJAL様の国内線の自動改札機のサウンドです。
チェックイン端末など空港内の機器の多くに使用されています。
開発期間も約一年半という歳月をかけ、無難な機械音からの脱却という至上命題をかかげ、
「夢のある旅立ち」をテーマにサウンド開発に乗り出しました。
当初はコンペでのプレゼンで、他の大きな会社を相手にしていたので、
僕のようなフリーのサウンドデザイナーに依頼することは冒険だったに違いありません。
ただ僕には自信とそれを裏付ける根拠があったのです。
なぜ自信があったのか?
僕はプレゼン時から、テーマを基に実際の試作音を制作しました。
それはサウンドではなく、空港の空間音をデザインするというテーマでした。
人々の雑踏やアナウンス音それらすべてをどう活かすか。
まずは多くの雑音を収集して、響きなどをデータ化して、
そこを通りやすい周波数などを実際の空港で検証。
もちろん空港による床材や空間の広さなどで大きく変わるので、
それに対して狭い周波数で聞こえ方を調整し続けるという大変細かい作業でした。
グローバルデザインに基づいた周波数見知から信号としてのサウンドを調べ、
デシベル数と音の飛距離や、どのような信号に対して人が反応するかなどもデータ化。
優しいと感じやすい周波数や、嫌だと感じる周波数などは多くの方に聞いていただいて、
アンケート協力を得て特性を出し、感覚値を数値化し、データとして検証できたことは今後の制作にも多いに役立つことでしょう。
もちろんこれらの数値に関しては今後も公表することは決してありませんが。
様々な実験、実証、データなどを持って、最終的に「夢のある音」になったのかどうかは、
お客様の皆様がそう感じてくれたならと願うばかりです。
ただサウンドに限らず、国の玄関である空港のデザインやインフラ、サービスなどは、
世界中の空港が最先端の技術やアーティストによって各国のアイデンティティなどを表現しています。
日本の航空会社もそうあって欲しいと僕も思います。
実際にはそうしたくても、スピードやコストの問題からなかなかチャレンジ出来ないのも現実。
そんな中、
私のような一介のアーティストにそのようなチャンスと時間を与えてくれたJAL様と開発チームに心から感謝致します。
現在も鳴り続けるその音に、僕は生涯誇りをもってゲートをくぐることでしょう。
皆様もぜひこの機会にJALに乗ってみて欲しいです。
そして、ゲートをくぐる時に聞こえるその音は、たんなる信号ではなく、
多くの関係者の努力とデータと時間と想いがこもった「音」が鳴っていることに気づくと思います。
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